2015年9月20日日曜日

【まとめ】現代語訳学問のすすめ 福沢諭吉

【まとめ】現代語訳学問のすすめ 福沢諭吉
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①学問には目的がある
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・人権の平等と学問の意義
 「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と言われている。
 しかし、この人間の世界には賢い人も愚かな人もいる。貧しい人も金持ちもいる。社会的地位の高い人、低い人もいる。なぜか?
 その理由ははっきりしている。学ぶか学ばないか、の違いの結果だ。
 
・役に立つ学問とは何か
 難しい漢字を知って、昔の文章、和歌、作詩 ・・・実用性のない学問
 ↑
 ↓
 教養。リベラルアーツ。普通の生活に役に立つ実学。いろは47文字。帳簿。そろばん。天秤の扱い方。
 地理学/物理学/歴史学/経済学/修身学=自然の道理(=倫理)を学ぶ

・自由とはわがままのことではない
 分限(義務)を知らなければ自由は使えない。自由とわがままは違う。わがまま=他人の害になること。

・国家の独立とは何か
 中国のように、自国よりほかに国がないように思い、外国人を見れば「(野蛮人め!)」と追い払おうとした結果→アヘン戦争
 ・・・・国として身の程を知らないところからきている。自分の力も客観的に把握せず。

・新しい時代の新しい義務
 個人が尊いのではなく国の法律が尊い
 昔は上はいばり下は卑屈になる → これからは、仮に政府に対して不平があったら、それを抑えて政府をうらむより抗議の手段をとってきちんと遠慮なく議論することだ

・恐れず行動せよ
 物事の筋道を知る必要がある。天の道理にしたがって思う存分行動せよ。
 世の中で学問のない国民ほど哀れで憎むべきものはない

世の中の法律を頼りにして、身の安全を保って社会生活をしているにもかかわらず、都合が悪くなると私利私欲のためにそれを破る輩がいるが矛盾していないか?

「愚かな民の上には厳しい政府がある」
→自分の行動を正しくし / 熱心に勉強し / 広く知識を得て / 社会的役割にふさわしい知識・人間性を備えよう

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②人間の権理とは何か
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天文学・地理・物理・科学・・・・・これらが存在するのは
知識教養の領域を広くしていって、物事の道理をきちんとつかみ、人としての知ることが目的である。

(昔の人が思っていたように、ただ文字を読むことでが学問。ではない)

論語読みの論語知らず・・・物事の道理を知らない学者
国のためには無用の長物で、経済を妨げるタダ飯食い

■天がこの世に人を生まれさせるにあたっては、体と心の働きを与えて、この基本的人権を持つものとしたのだから、どんなことがあってもこれを侵害してはならない
昔の「親と主人は無理をいうもの」のような人権侵害は古い

■政府と人民は対等である

政府=法律を作り、悪人を罰して、善人を守る
この政府の商売にお金を払うのが人民。これは政府と人民の約束(社会契約)である

法律を守るのは人民の責任。

※学問がなく、道理も知らず、食って寝るしか芸がない人間がいる。無学のくせに欲は深くて、ぬけぬけと人をだまして、法律のがれをする人間がいる。

こういう輩がいるから、暴力的な政府が存在しないとならなくなる。アジア諸国は昔からそうだった。
暴力的な政府は、国民の無知が原因で自ら招いたもの。
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③愛国心のあり方
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国同士にも道理あり

わが日本にも、今日の状態では、西洋の豊かさ強さに及ばないところもあるけれども、一国の権利としては、少しも違いはない。

貧富・強弱の状態は、予め決められている訳ではなく、人間が努力するかしないかによって変わるもの。

Qなぜ、国民一人ひとりが独立していないと、その国自体が独立できないの?

A
1 独立の気概がない人間は、国を思う気持ちも浅いから
→独立とは、自分の身を自分で支配して他人に依存しないことをいう。物事の正誤を自分で判断し、間違いのない対応ができるものは、他人の知恵に頼らず独立しているといえる。
自分自身で頭や体を使って働いて生計を立てているものは、他人の財産に依存せずに独立しているといえる。

日本が有事の際にも、人民がどこか「お客さん」気分で、政府=主人に頼るようなら、独立など保てない。
外国に対して我が国を守ろうとするなら、独立の気概を全国に充満させ、国民としての責任を果たさせろ

今川義元の首を取られた今川軍が、蜘蛛の子を散らすように退散した過去=駿河の民は今川義元一人主人で、それ以外の人民・家来はお客さん気分だった

2 国外に向かって外国人に接するときも独立の権利を主張することができないから

独立の気概がない→人に頼る→頼った先の人間を恐れるようになる→恐れる者はその人間にへつらう→常に人を恐れ、へつらう者はだんだんとそれに慣れ、面の皮だけ厚くなって恥ずべきをしらず、論じるべきことを論じない。人を見れば卑屈になるばかりとなる。
これが習慣=習い性になると容易には改められない

町人根性=武士に苦しめられ、裁判所に叱られ、下っ端武士にも「お旦那様」と崇める魂は腹の底まで腐っていて、一朝一夕には洗い流せない

3 独立の気概がないものは、人の権威をかさに着て悪事をなすことがあるから。

国は、国民を束縛して、政府ひとりだけが苦労して政治をするよりも、国民を開放して、苦楽を共にしたほうがいいではないか、ということなのだ。  

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 ④国民の気風が国を作る
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日本の独立という課題

国にもバランスが必要
 政府は内側の生命力のようなもので、国民は外部の刺激のようなものだ

政府先制の限界
 一国の文明は、ただ政府の力のみで発展できるようなものではない

個人をダメにする気風

洋学者の役割と弱点
 とにかく政府に仕えようとする漢学者の悪い習慣から抜け出せておらず、洋学者の服を着ていながら、中身はまるで漢学者なのだ。

いまだ世の中に人民の権利を主張する例がなかったからであって、ただ卑屈な気風に支配され、それに染まって、国民の本領を発揮できないからである。

質疑応答
Q 政府は人材に乏しいので、この上、民に流れたら官の仕事に差し支えるのでは?

A決してそうではない。むしろ、今の政府は人数が多いことに困っているのだ。事業をシンプルにし、人数を減らせば、その仕事はきちんと整頓される。その人材は民間の仕事に回る。

Q今、官にいる人が、これから民間でやろうとする人物がいても、官の世界から離れればほかに生活の道がない

A官で公職につくのと、民間で事業することの難易度に差はないはず。もし難易度が違くて利益が一緒なら、官は給料をもらいすぎなだけ!
能力も技能もないのに、運がいいだけで官の仕事について、みだりに給料をむさぼって、ぜいたくをし、それでいて、軽い気持ちで天下国家を語っているような者は、われわれの仲間ではない。
(明治7年1月 出版)

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⑤国をリードする人材とは
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明治日本の状況
 たとえていえば、家の中で育てられた子供が、まだ他人と接したことがないようなもの

中産階級の役割
 蒸気機関/鉄道/経済の法則。。。新しい物は欧米では政府が発明したのではなく、真ん中ぐらいの階級の人が全部発明したmiddle-class

学問をやるものの使命
 読書は学問の技術の一つ。学問は物事をなすための技術にすぎない

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⑥文明社会と法の精神
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国法はなぜ必要か
 国民が法を破るのは、政府が作った法を破るのではなく、自分たちが作った法を破るということなのだ

国民というのは、一人で二人分の役割がある
1 自分の代理として政府を立てて、国内の悪人を取り締まって善人を保護すること
2 政府との約束を固く守って、その法に従って保護を受けること

このルールを守らず
 ・私裁=リンチ/暗殺/仇討ち
などは許されない行為。
忠臣蔵の義士たちは間違いをおかしている。義士全員が裁判で切腹は当然。
47人はそれぞれ筋を通して、法の手順に従って政府に訴えればよかった。国法の重大さを顧みてない。

この仇討ちを良しとするなら、吉良家がまた敵討ちをするのも理にかなってしまう。これが続けば無政府状態、無法の世界となる

昔の日本は「斬り捨て御免」と政府が公に私裁を認めていたことがあった

暗殺は最低の行為
 天誅とは何ごと?政府の権限を犯して好き勝手に人を殺して、得意げになって「天誅を行う」という。さらにそれを、国に報いる人間だ、と言ってほめる者もいる。
商売違いも甚だしい。性格は律儀だとしても、物事の道理をわかってない。
古今の世界に、暗殺でうまく事をなし、社会の幸福を増やした例などないのだ。

※遵法精神※
※初期の橘玲の節税テクニックとか※

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 ⑦国民の二つの役目
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2つの役目
 国は会社のようであり、人民は会社の人間のようであって、ひとりで主人と客の二つの役目をつとめるべきなのだ。

客としての国民
 他人が自分の権利を侵害するのが嫌ならば、自分もまた他人の権利を侵害してはならない。

会社の中で一人、会社方針と違う商売をし始めてて損害を出していけば、いずれ会社=国は傾く。
国が決めたルールに従うこと。国と国民が約束したことを守ること。

主人としての役目
 政府のやっていることは役人個人の事業ではなく、国民の代理となって一国を支配している、公の事務という意味なのである。
 役人のムダ遣いにはよく目を尖らせておかないといけない

税金は気持ちよく払え
 年間わずか一円二円を払って、政府の保護を受けて、泥棒や強盗の心配もなく、一人で旅行しても山賊に遭う恐れもなく、安穏とこの世を渡っていけるのは、非常に便利なことではないか
世の中に、税金を払って政府の保護を買うほど安いものはない。

ダメな政府に対して取る手段
 何の武器も暴力も持たずに、正しい道理を唱って政府に訴えることである。
 正しい道理を守っていれば、必ず同情する気持ちが生まれるだろう。

命の捨てどころ
 世を憂いて身を苦しめ、命を落とすもの マルチルドムmartyrdomという

 主人から預かった一両を落として死んだ権助
 忠臣蔵四十七士

どちらも、命の捨てどころを間違えてる。非文明社会のできごと。
文明の繁栄に貢献しない死に方は、命の捨てどころを知らない者がやること。

文明とは、人間の知恵や徳を進歩させ、人々が自分自身の主人となって、世間で交わり、お互いに害し合うこともなく、それぞれの権利が十分に実現され、社会全体の安全と繁栄を達することである。

それが過去にできたのは佐倉宗五郎だけ。

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 ⑧男女間の不合理、親子間の不条理
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人間であることの分限を間違えずに世間を渡れば、他人にとがめられることもなく、天に罰せられることもない。これが人間の権利である。

他人の権利を妨げない限りは、自由自在に自分の身体を使っていい道理になる。

他人の利害に関しない限りは、はたからあれこれ言われる筋合いはない。

男尊女卑の不合理
 女大学 婦人が三つ従わないといけないもの
幼い時は両親 嫁に行ったら夫 老いたら子供

浮気夫であっても従わなければならない

妾の風習を批判する
 妾と妻を同居させるなんて家畜小屋といっしょ
 子がないのが不幸だから妾をとる、っていう理屈はあり得ない。孟子の教えを拡大解釈しているだけ

親は親孝行に名を借りて、子どもの財産を貪るな

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 ⑨よりレベルの高い学問
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衣食住が足りればいいってわけじゃない

仕事をするようになり、結婚をして、子どもが生まれ、家を持ち、子どもに教育をほどこして、幾らかの貯金をしてまさかに備え、長期プランをこまごまと気にかけ。。。。これは蟻と変わらない。蟻の弟子。

生まれてから、衣食住だけ確保して子どもを育てておしまい。
これでは今まで人類が進歩してきたことから何も貢献せずに終わる人生。これでは人間としての目的を達したものとは言えない。


人間は社会的動物
 広く他人と交際して、その交際が広くなればなるほど自身の幸福も大きくなるのを感じるものであって、これが人間社会が生まれた所以。

われわれの仕事というのは、今日この世の中にいて、われわれの生きた証を残して、これを長く後世の子孫に伝えることにある。
これは重大な任務である。

数冊の教科書を読み、商人となり職人となり、小役人となり、年に数百程度の金を得て、わずかに妻子を養って満足していられようか。これでは他人を害さないというだけだ。他人にプラスになるような者ではない。

まとめると

人間たる者は、ただ自身と家族の衣食を得ただけで満足してはならない。人間にはその本性として、それ以上の高い使命があるのだから、社会的な活動に入り、社会の一員として世の中のためにつとめなければならない

※それはなぜか?
今の豊かな時代を生きているのは過去の人たちが文明を遺していってくれたおかげ。

文明が開ける=進歩することは善。

これを今よりさらに善くして後世に残し、できれば名を遺すようにすることは今を生きるわれわれの使命
※※


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 ⑩学問にかかる期待
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学問を身につける費用効果の勘定
 1年100円 3年300円 授業料
 その後役人として就職すると月50円〜70円

生計を立てるのが困難である、とは言っても、よくよく一家のことを考えれば、早く金を稼いで小さなところで満足するよりも、苦労して倹約し、大成する時を待ったほうが良いのだ

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 ⑪美しいタテマエに潜む害悪
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政府と人民は親子ではない。他人同士の付き合いなので、情愛はを基本にすることはできない。

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 ⑫品格を高める
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演説のすすめ
 一人の人間の考えていることを多くの人に伝えるのに、スムーズにいくかどうかは、それを伝える方法におおいに関係しているといえる。

学問はただ読書するだけではない。学んだことを実際に活かすこと。生かせない学問は学問じゃない。

学問本来の趣旨は、ただ読書にあるのではない。精神の働きにある。

トルコやインドが、昔の隆盛を失い、欧米の隷属になった訳は?
→それぞれの国の人民の視野が、ただその国内だけに限定されていたからだ。自国の状態に満足しきって、他国との比較は部分的なところだけして、そこで優劣なしと思って判断を誤ったからだ。

視野を広く持て

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 ⑬怨望は最大の悪徳
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ねたみは百害あって一利なし
 奢り⇔勇敢 粗野⇔率直 頑固⇔真面目 お調子者⇔機敏
これらは、良い点と欠点両方備えた特性

ただし「妬み 怨望」だけはひとつも良いことが無い

他人を引き摺り下ろそうとパフォーマンスを落とす

妬みは諸悪の根源 懐疑/嫉妬/恐怖/卑怯はすべてここから

怨望とは、公共の利益を犠牲にして私怨をはらすものなのだ。

御殿女中の異常な世界

人間の最大の災いは「妬み」

その原因は窮=言いたいことやりたいことができない

であれば言論の自由は邪魔してはいけないし、行動の自由は妨げてはいけない

妬みがなくなれば、公共の利益は確保できる


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 ⑭人生設計の技術
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心の棚卸し
 人間は自分で思っているより愚かなことをする

多くの人は事の難易度と時間のかかり方を計算しない
→期日や約束を守れないのは、事を企てるにあたって、時間のかかり方を計算に入れないことから生じている

以上論じたように、人生というものは、思いの外に悪事をなし、思いの外に愚かなことをやり、思いの外に事をなさないものなのである

棚卸しのススメ

 自分の知性・人格、事業の帳簿をつけて、損失が出ないように心掛けなければならない。

 ・過去10年間は何を損して何を得たのか
 ・今は何の商売をして、その繁盛のようすは?
 ・いまは何を仕入れて、いつどこでこれを売る?
 ・遊び癖/怠け という名の店員のために損失は出していなかったか?
 ・来年も同じ商売を続けていて大丈夫か?
 ・ほかにさらに知性や人格を磨く工夫はないか?

売れない商売を始めたり、、、
基礎知識もなく高いレベルの本を読み始めてすぐ挫折してみたり・・・(元手無しで商売を初めてすぐあきらめて他の商売をするようなもの)
いろいろな本を読んでいながら、世界の情勢も知らずに、自分自身の家計にも苦しむ。。。。ソロバンなしの雑貨屋をやるようなもの。

これらの原因は、ただ流れに任せて生きているだけで、かつて自分自身の有様を反省したこともなく

「生まれていままで自分は何ごとをなしたか、
 いまは何ごとをなしているか、
 今後は何事をすべきか」

と、自分自身を点検しなかったからである。


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 ⑮判断力の鍛え方
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文明は疑いが進歩させる

「もしも日本文化と欧米文化が逆のものだったら?」→西洋習慣をバカにして、今頃日本文化を崇めてたんじゃない?

片方だけを盲信するのではなく、暗中模索して、比較して、信ずべきを信じ、疑うべきを疑い、取るべきところを取り、捨てるべきところを捨て、きちんと判断する。 難しいけど。
この仕事をするのは、われわれのような学問をするものだけだ、だからがんばろう。
 
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 ⑯正しい実行力をつける
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独立には二種類ある
 ・品物についての独立
 ・精神についての独立

物に支配される人々
 「一杯、人、酒を呑み、三杯、酒、人を呑む」
物欲が高じると人間は物の支配を受けてその奴隷になる

他人の持ち物の奴隷 になる場合もある
 いつも人の所有物と比べて、合わせようとする
→身についたとすれば贅沢の習慣だけ。

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 ⑰人望と人付き合い
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自己アピールの方法

1 言葉について勉強しなければならない
演説の技術。しゃべる技術。日本語を上手に使って、弁舌が上達するよう

2 表情・見た目を快くして、一見してただちに人に嫌な感じを与えないようにすることが必要

表情や見た目が快活で愉快なのは、人間にとって徳の一つであって、人付き合いの上で最も大切なことである
ムスッとして渋い顔をしている人には誰も近づかないよ!

3 交際の範囲を広くするコツは、関心をさまざまに持ち、あれこれをやってひとところに偏らず、多方面で人と接することにある。

人間のくせに、人間を毛嫌いするのはよろしくない。

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あとがき
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今の時代に最も必要なのは、大きな目標を目指して動くことで、自分自身も充実するという連環

この本の特徴は、お金儲けと、世のため人のための事業が同じ地平線上にあると指摘したところ

福澤の情勢を見極める目

現代は、自分たちが社会に参加しているという意識を持ちにくい時代

自己意識はどんどん肥大化しているのに、社会の中で自分の占める割合が極度に小さい。
このギャップは個人をむしばんでいる

何か大きな柱となる目標や気概というものがないと、現在の生活を推進していくのにもリスクが伴うようになります。
今の生活を維持すればよいと思った人は、実はリストラされたりしやすいわけです。


「気概」とは、きちんとやるべきことが見えていて、そこに全精力をかけていきたいという明確な思いのことです。

生き方の型を失った現代では、心を安定させて生きていくということが一層大切になってきています。そのためには、

社会と自分との関係をしっかりつかまえて、客観的に物事を判断できる能力

は皆つけたほうがいい。

この本の特徴
 ・恐れがない文体
 解りづらい文章を書く人
→啓蒙的能力の欠如(理解させる気がない)
→100%理解されきってしまうことへの恐れ

漢学者のことを「もってまわったくどくどしい言い方をするくせに、内容はほとんどない」と酷評

2015年9月19日土曜日

【まとめ】
本をサクサク読む技術 - 長編小説から翻訳モノまで 齋藤 孝 (中公新書ラクレ)


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 1章 「読破」するにはコツがある
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並行読書のススメ
 読書家ほど「不真面目」
 本は大量購入・大量消費で
  ・5冊でも10冊でも(あるいは20~30冊でも)同時並行的に読めばいい
  ・ムダなものを読む時間(=浪費)のリスクをヘッジできる
  →つまらない本を、「せっかく買ったんだから」と飽きて疲れて読むのは苦行

 本を買ったらただちに喫茶店へ
  ・積読はキケン。獲った魚は新鮮なうちに捌け。
 日常のTPOで読み分ける手もある
  ・聖徳太子ではないが、10冊の本を同時に読むことは誰でも可能

 「港々に本あり」の幸福論
  ・電車内=ビジネススキル/情報収集の新書
  ・帰りの電車=娯楽用の小説でクールダウン
  ・帰宅後の家=ノンフィクション、伝記
  ・就寝前=宗教関係
  ・週末(休みの日)=長編小説、未知のジャンル

新書から始めよう
 新書はあらゆるジャンルに通ず
 一週間で5冊の本を読め
  ・大学生に課されたノルマ。週に5冊、かつ内容を3分で説明する課題
  →「ざっと読んで要約する力を養う」
 本はどんどん”汚し”なさい
 新書を使えば、”通”になるのは簡単だ
  ・↑がトレーニングできていれば「今から1時間以内にこの3冊を読んで要約して」が難なくクリアできる
 1つのキーワードから世界を広げる
 
昔の受験勉強を今の読書に活かせ
 受験勉強が教養の扉を開いた
  ・受験勉強=網羅的に教養の基礎を身につけられた機会
 「世界史」から人間観を学ぶ
 各科目の「資料集」がおもしろい

「見る」も「眺める」も読書のうち
 「図解シリーズ」は大発明だ
 図鑑・写真集を自分の書棚に
 よろず相談室①
 Q読むペースが遅い。どうすれば効率よく読書し、自分の身になるか?
 A時間を決める。場所を限定する。「今から30分で読む」など。読む部分を”選択と集中”する
  本当の効率とは、「読書で得た知識を、自分のものとして活用する」こと。

 よろず相談室②
 Q忙しくて読書時間を捻出できない
 A1語1語をかみしめて読むような本なら、満員電車でも手を動かさなくてすむ
  分厚い本なら適度な長さに切る
  オーディオブックを活用
 

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2章 長編小説を挫折しないで読む方法
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登場人物がややこしい長編小説の読み方
 連続テレビ小説を見る感覚で
  ・長編小説への恐怖心をなくす
   とりあえず読んでみよう、ぐらいの感覚で始めて。連続ドラマも最初から「最終回まで全部観通すぞ!」と意気込んで診る人はいない
 「会話」の部分だけ読んでみよう
  ・カギカッコだけ読んでみる。余談はそっくりそのまま飛ばす
 ”ストーリー想像能力”をフル活用しよう
  ・会話だけで余白を想像すると読むスピードは格段に上がる
 「ミステリ」から始めよう
  ・推理小説のように読書の興味を惹くから。「罪と罰」
 「わからなさ」を受け入れる覚悟を
 人物相関図を書き出してみよう

自分に合う小説はこうして探せ
 「名作100選」に惑わされるな
  ・90年代以降から名作の価値が急速に落ちてきた感
  ・古典は難解で、文章も今風でないから読みにくい!
  ・及び腰。ぱらぱらめくって「もし面白かったらラッキー」ぐらいでいい
 一人の作家の世界に入り浸ってみる
  ・たとえば「太宰月間」と決めて、10冊ぐらいをまとめて読んでみる

 短編集で作家の力量を問う
  ・読むのがラク。
  ・短編でも途中で投げ出したくなる作家なら、「この作家とは相性が悪い」と見切りを早くつけたほうがいい

 よろず相談室③
 Q自分に自信がなく「価値がない」「生きていても仕方ない」と思う。本で救われるのか?
 A「この世には生きるだけの価値がある」と本は教えてくれる。その考えは視野狭窄が生んでいる。それを解消するのが読書。
 

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3章 「ビジネス常識」としての経済小説、歴史小説入門
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経済小説で経済を知る
 まずは「コミュニケーション力」を学ぼう
 異業種の仕事を覗き見る楽しみ
 偉大な経営者の「伝記」で感化されよう
 「ナポレオン」「カサエル」の言葉を聞ける幸せ

知識ゼロからの歴史小説入門
 まずはド定番の司馬遼太郎から
 江戸時代の”純日本”に浸ろう
 江戸の「職人気質」に学べ
 芭蕉も十返舎一九も意外に「読める」
 ベストセラー作家「井原西鶴」がおもしろい
  ・「好色一代男」一代=子孫を残さない。稼いだお金を全て女遊びに注ぎ込む。「家系を絶やさない」ことへの強烈なアンチテーゼ

 よろず相談室④
  Q変化の激しい時代、グローバル化/IT化。若手と上司に挟まれた間の世代はどうすべきか?
  A本当に自分の仕事で「グローバル化」「IT化」が要求されてるのか?メディア/シンクタンクに煽られてるだけでは?
   英語もITも必要もないのに「身につけなければ」と強迫観念に駆られるのは無意味。
   ただ、共通して身につけたほうがいいものは経済関係の知識。経済学の理論書/解説書がおすすめ

 よろず相談室⑤
  Qこみゅりょくがない。雑談ができない
  A最低限雑談力をつけるよう心がけよう。雑誌を定期的に読むのがおすすめ。(Cut / Switch) 能町みね子「週刊文春」(言葉尻とらえ隊)

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4章 難解な翻訳書・学術書を読みこなすコツ
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難解な本をクリアする法
 難しそうな評論文は「感情」を読み取れ
  ・難解な専門用語・滅多に見聞きしない単語、やたらと長い一文、ひねくれた言い回し・・・・こんな本は避けるべし。「難読病」
 古典は「解説書」に頼ってみよう
  ・いかに多くの関連本に当たるか。予備知識を備えてチャレンジ!すれば怖くない。

海外古典文学を読まずに死ねるか
 古典の漫画版も悪くない
 ドストエフスキーなら究極の「解説本」がある
 お気に入りの”翻訳者”を探せ
 最先端のアメリカ文学を知るには

英語ビギナーのための洋書読書術
 インチキも可、「読み通す」ことを優先しよう
 「朗読CD」でその世界に入り込め
 おすすめはシドニィ・シェルダン

ド文系のための理系本攻略法
 ”食わず嫌い”はもったいない
 偉大な日本人化学者たち
 「方法序説」で理系思考のベースをつくろう
 科学の裏側にある「人間ドラマ」も面白い

 よろず相談室⑥
  Q読書メモを始めたけど長続きせず。。。せっかく読んでも頭に入らない。きちんと記憶に残るような読書法は?
  A読書メモは面倒。本の中にどんどん書き込む。そうして汚した本は売らずにずっと保管。そうすると、背表紙を見たりパラパラたまに読むだけで当時の内容が思い

出されるもの。
   そして人に本の中身を紹介する。(アメリカの数学者ノーバート・ウィーナー)
   本人が研究内容を整理して意識するためにあえて他人に今やっていることを話す。

  &書く。SNS。ブログに書く。レビューに書く。話すよりエネルギーが必要だが、その分しっかり整理できる。



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5章 本を選ぶヒント―王道から邪道まで
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新刊情報」に敏感になろう
 新聞はせめて広告欄だけでも。。。
 ネットレビューの解読術
  ・「極端にべた褒め」「極端にこき下ろし」を取り除いて読むとより正確な評価がわかる
  ・レビュー時はネガティブ発言を避けましょう
 自分に合う「書評家」を見つけよう
 書店は情報の宝庫だ
  ・脳を活性化させるのに、書店ほど優れた場所はない
 図書館で「試し読み」

「ベストセラー」から得られる二つのメリット
 「ベストセラー」は雑談ネタとして最適
  ・「ちょこっと知ってる」とまったく知らないのは雲泥の差。なのでさらりとは読んでおいたほうがいい
 ベストセラーから時代が見える
 「賞」は道の分野を開拓するチャンス

レーベルごとの個性を知る
 「文庫」といってもいろいろある
 海外作品の”食わず嫌い”はもったいない

自室に書棚はありますか?
 書棚を置くなら「ボックス型」がおすすめ
 「蔵書1000冊」をめざそう
  ・はじめに500冊読めば、残り500冊はそれまでの半分or1/3の労力で読みこなせる
  ”””読めばよむほど、さらに「読みたい」と思う本が現れるから”””それは私が保証しましょう。

よろず相談室 ⑧
  Qマンガとゲームばかりの息子で心配。。。
  Aマンガは割りとコスパが高い。ただし、ゲームと小説では感動の種類が違う。どれほど映像技術が高くても活字にはかなわない。
   ゲームに感動できるなら、小説を読めばもっと深く感動できるはず。

よろず相談室 ⑨
  Qライトノベルばかり。萌えとかネトウヨとかにはまりがちな息子が心配。。
  Aラノベは本を読む習慣としてはOKでは?「戦争を美化」視野がが狭い。バランスをとることが重要。1つの視点しか持たないのが問題。


おわりに

  出版業界は、今は適者生存を賭けて必死でもがいている。
  →「腐りかけの肉が一番うまい」とも言います。 今なら生涯の師または友になる良書に以外に簡単に出会えるかも。

  手に取った本をサクサク読む快感を、おおいに味わってもらいたい。




2015年9月17日木曜日

【まとめ】こころ 夏目漱石 (新潮文庫)

こころ 夏目漱石 (新潮文庫)

1.先生と私

明治40年前後の避暑地鎌倉。私はそこへ学校(「私」は職業:教師)の夏休みを利用して遊びに来ている。

そこへ、どこかで過去に会ったような年上の男性=先生(年上なのでそう呼んでいる)。
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私は先生に意欲的に知り合おうとする。雑司が谷の友達の墓参り。

先生は無職。あまりしゃべらない。奥さんに胸のうちを話さない。奥さんは献身的だがそれが悲しい。

「人は誰でも悪人になる」「生前に財産のことだけはキチンと決めておけ」と先生のアドバイス

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2.両親と私
私の父の病気(腎臓)で帰国。

死ぬ前に息子の働き口が決まることを渇望する父。東大を出てすぐ破格の月給を貰えるものだと勘違いしている。
この広い家で父が亡くなり、母一人にしていくことを想像する私。
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父の危篤前後に、働き口の斡旋を手紙で先生に頼んであった返事が来る。ただしこれは長文。文末には自死するような内容が。
手紙の前文も読まず後先も考えずに、三等列車に飛び乗る私。


3.先生の遺書

K/先生 明治30年前後(1900年頃)
私/先生 明治40年前後(1910年頃)

先生は両親が病気(チフス)で20歳の頃に死別。叔父に財産・面倒を全て見てもらうことに。
財産目当てで従姉妹との婚約を迫られる。何度も断ると、両親の残した財産をいつの間にかほとんど取られている。
→先生は、金についてのエゴで大きく人間不信に陥る。

Kは養子だったが、自分の進みたい道を専攻するため養父母にウソの進路を伝えていたが、バレて勘当。学資が無くなる。
東京で同郷だったKの面倒を見るため、先生はすでに下宿していた「奥さん」と「御嬢さん」のいる素人下宿にKを入れる。


kと娘がこっそりKの部屋で一緒。Kへの嫉妬が芽生え始める私。

房州(千葉県南部)へKと私は二人で旅行。今の安房郡鋸南町。

御嬢さんについての話題になると、Kの胸ぐらを掴むくらい私は憎しみを感じた。不愉快。

上総の「そこ一里(「そこ」と言われたけど1.8kmもある。。田舎の人の適当さ具合)
房総半島を結局二人でほぼ一回り歩いていった。

小湊。鯛の浦。日蓮の生まれた村。当時の小湊は何もない漁村。日蓮の出生日に鯛が二匹打ち上げられた、という逸話。

その晩、Kと私は口げんか。御嬢さんのことをストレートに言い出せない私は勇気が欠けていた。虚栄心。

東京に帰った時には二人とも真っ黒。
東京に帰って、両国で軍鶏料理を食べる。両国から小石川までは徒歩で帰る。

Kと御嬢さんが一緒にいるのが腹立つ。許せない。が、「出て行ってくれ」とは、自分が無理にKを下宿に呼んだ手前言えない。

言いたいが行動に移せない。身動きの取れない状態。金縛りに似た感じ。
→”身体の悪いときに昼寝などをすると、眼だけ覚めて周囲のものがはっきり見えるのに、どうしても手足の動かせない場合がありましょう”

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翌年初め、Kから御嬢さんに対する切ない恋を打ち明けられた。
Kの自白を聞きながら、私=先生は「どうしよう、どうしよう」という念。一種の恐ろしさ。
「なぜ、自分の気持ちを同じタイミングでKに言うことができなかったのか?」という悔い。

その後、図書館でKに声をかけられ、上の話の続き。Kは弱っていて、私にアドバイス(批判)を求めてきた。

私は彼に「精神的に向上心の無いものは馬鹿だ」と意図的に恋の行方をふさぐような一言を言った。
K「僕は馬鹿だ」「もうこの話はやめよう」
私「自分が言い出したんだろ。自分の心でその問題を止められるんならいいけど。大体、さっきの自分の主張をどうする気?」

※正直で強情(行動力のある。言動一致している)なKに、意図的に、Kの矛盾を責める先生。
→先生はそれでKに勝ったような気分。
K「覚悟?覚悟なら無いこともない」


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その後日、仮病を使って私は奥さんと家に二人きりに。
奥さんに「御嬢さんを私にください」と突然のお願い。

奥さん「あんまり急じゃありませんか?」
わたし「急に貰いたいんだ」
奥さん「宜ござんす。差し上げましょう。どうぞ貰って下さい」
わたし「御嬢さんの気持ちを一度確認してから・・・・」
奥さん「本人が不承知のところへ、わたしがあの子を遣る筈がありませんから」

その後、居づらくなって家から出ると、バッタリ御嬢さんとすれ違う。 わたし「もう病気はなおりました。なおりました。」
と水道橋方面へ。
帰宅してから、何も知らない彼に本当は手を突いて詫りたかった。が、できなかった。

夕食は、いつもの無口なK。嬉しそうな奥さん。どちらの事情も知っている複雑な私。御嬢さんだけはその夜に限って食卓に来ない。

Kに早く本当のことを言わなければ。でも行動できない。・・・と迷っている間に奥さんがもうKにこの件を伝えてしまっていた!

Kはその時に「おめでとうございます。」「結婚は何時するのですか」「お祝いをあげたいが私にはお金が無いから・・・・」とだけ言っていた。

二日も経ってもKの私に対する態度は全く変わらなかった。
ただ、私は「おれは策略で勝っても、人間としては負けたのだ」と思う。
Kにそこを突かれて恥をかかされるのは、私の自尊心にとって大きな苦痛だった。
(とにかく、明日どうするか決めよう)

そう思った日の夜、Kは自殺した。

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彼は死んでいた。夜中に声を掛けても返事が無い。机に私宛の遺書。

中身を確認し、まず自分への恨みつらみが無いことに安心する自分。世間体を気にする。

遺書の内容「自分は薄志弱行で到底行先の望みが無いから自決する」とだけ。

「もっと早く死ぬべきなのに、何故今まで生きていたのだろう」と最後の一行。

読んだ後、ふと襖を見るとそこにほとばしる血潮。

気が動転して自分の部屋をぐるぐる廻る私。現場の恐ろしさとこの後の自分の運命への恐怖。

明け方まで待って、奥さんを自分の部屋へ。「驚いちゃいけません」「Kは自殺しました」私は手を突いて頭を下げた。
「すみません。私が悪かったのです。あなたにも御嬢さんにも済まない事になりました」とふいに言った。

Kは小さなナイフで頚動脈を切って、一息に死んだ。

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生前、雑司が谷近辺が好きだったKに「そんなに好きなら、死んだらここへ埋めてやろう」と私は約束したことがある。

新聞に載った記事には「父兄から勘当された結果、厭世的な考えを」「気が狂って自殺した」とだけ。

その後、その家は引越し、私は東大を卒業。そして結婚。(ここまで半年)

Kの墓参りを同行したい、と妻。何も知らない妻は死んだKに結婚の報告を嬉しそうにしている。(もう二度と墓参りは二人で行かない)と決める。

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妻との新しい生活が始まっても、妻と顔を合わせているうちに、突然Kに脅かされる。
妻の何処にも不足を感じない私は、ただこの一点において彼女を遠ざけたがった。

これが続くと妻もその気持ちに気付き
「あなたは私を嫌っているんでしょう」「何でも私に隠していらっしゃることがあるに違いない」とかいう怨言も。

この際ありのままを妻に打ち明けようと思ったことが何度もある。
妻の前に懺悔の言葉を並べたなら、妻は嬉し涙をこぼしても私の罪を許してくれたに違いない。これを実行する私には打算も利害も関係ない。

”私はただ妻の記憶に暗黒な一点を印すに忍びなかったから打ち明けなかったのです”
”純白なものに一雫のインクでも容赦なく振り掛けるのは、私にとって大変な苦痛だったのだと解釈して下さい”


その時まで、叔父に欺かれた自分は、他人を悪く取るだけあって、世間はどうあれ自分は立派な人間だ、という信念がどこかにあった。

”それがKのために見事に破壊されてしまって、自分もあの叔父と同じ人間だと意識した時、私は急にふらふらしました。
 人に愛想を尽かした私は、自分にも愛想を尽かして動けなくなったのです。”


酒に意識的に溺れてみようとする。ふと自分が「わざとこんな真似をして己を偽っている愚物」に気付いて醒める。そして沈鬱な反動。

腹の底では、世の中で自分が最も信愛しているたった一人の人間ですら、自分を理解していないのかと思うと、悲しかった。
理解させる手段があるのに、理解させる勇気が出せないのだと思うと益々悲しかった。

私は寂寞でした。何処からも切り離されて世の中にたった一人住んでいるような気のした事もよく有りました。

私はただ人間の罪というものを深く感じたのです。

”こうした会談を段々経過していくうちに、人に鞭たれるよりも、自分で自分を鞭つべきだという気になります。
 自分で自分を鞭つよりも、自分で自分を殺すべきだという考が起こります。私は仕方がないから、死んだ気で生きていこうと決心しました。”

明治天皇の崩御。殉死という考えが頭に浮かぶ。
乃木大将の殉死のニュース。乃木さんは西南戦争で敵に旗をとられて以来、申し訳のために死のう死のうと思って、つい今日まで生きてきた。
35年間死のうと思って、死ぬ機会を待っていたらしい。

妻の知らない間に、こっそりこの世から居なくなる。妻から「頓死(急死)した」と思われたいのだ。

(この手紙をしたためた)私の努力は、半ば以上は自分自身の要求に動かされた結果なのです。
”私は妻にはこのことを知らせたくない”これが唯一の希望。

”私が死んだ後でも、妻が生きている以上は、あなた限りに打ち明けられた私の秘密として、凡てを腹の中にしまって置いて下さい”

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『こころ』について 三好行雄

明治43年(1910)に胃潰瘍が悪化して漱石は人事不省(じんじふせい)の危篤状態に陥る。

人間の生と死をめぐる認識はいっそう透徹(筋が通っていてすみずみまではっきりしていること)したものとなる


エゴイズムの追求と批判がより徹底した形でなされている

漱石は自筆の広告文で「人間の心を研究するものはこの小説を読め」

父の死ぬ瞬間まで克明に書いたのに、先生からの手紙を受け取って東京にとんぼ返りしてから何も書かれてない。あまりにも不自然。

先生からの手紙を四つ折に畳んで一寸それを懐に差し込む。。。。その手紙、原稿用紙200枚分ありますけど! (両面書き?2in1?)


<自由と独立と己れとに充ちた現代>

先生に対して、漱石の放恣(だらしない。勝手気まま。節度がない)なまでの自己移入。

先生は御嬢さんを占有しようとして、Kを裏切った。この個人的な体験に発する罪の認識
(しかも、先生はそれを妻と共有することさえみずからに許さない)

死んだように生きる自己呵責を選んだ先生。

<明治の精神>に殉死することで、先生は固有の倫理をつらぬいて<自由と自己と己れとに充ちた現代>への批評を獲得した。


「殉死」<明治の精神>
無償
没我性


お互いは対極にある


「自由・独立・自己の確立」=明治の精神の終焉

”漱石にとって、乃木の殉死は大正という新しい時代の推移とともに、しだいに重い意味を持ちはじめるという性質のものだったようである”